陸章 毛花売りの少女

そんな遣っ付け仕事でいいんかい

前述のバラを注文してくださったオバさんの話の続き。出来上がった商品を送ったら「もう少し豪華にしたいので三輪追加したい」と言ってきた。三輪程度で果たして「一層豪華」になるものか?と、かなりギモンだったが、後はお客さんのすることなので言われた通りに品物を作るしかない。

それにしても、このオバさん、最初にお伺いを立てて来た時からヤケに急いでいた。追加の依頼をしてきた時も「使う期日が迫っているので早めにお願いします」と書き添えてある。そんなに期日が迫っているなら、筆者ならば三輪増し程度のチンケな豪華さは捨てて、道具を馴染ませるのに心血を注ぐが…。て言うか、それ以前にそんな期日が差し迫っているのに新しい道具を注文して手順に取り入れようなどとチャレンジングなことは恐ろしくて出来ない。なにしろ筆者は学生時代からエラい準備が早い方だった。「少なくとも本番二週間前にはスムーズに通し練習が出来るようにする」と勝手に目標を立て、他の人々が一週間前になっても手順が完成せずに右往左往しているのを尻目に通し練習をがんがんしまくっているような輩だったのである。「本番前日に道具が出来上がるのがフツー」だったイリュージョンをやった時も、三週間前には塗装も含めて道具を完成させ、総勢十名の黒子達を総動員して通し練習を毎晩がんがんしまくっていた。付き合わされた方はいい迷惑だっただろうが、たかが学生の発表会といえども入場料を取って人に見せる以上はこっちの方が心構えとしてはフツーだと思う。

そう言えば、暮れに矢鱈と注文をよこしてきた学生さんがいて、その人もなんだか「使う期日が迫っている」ようなことを始終書いてきたり、商品を送ったと思ったら、すぐに追加注文をしてきたりと、直前までドタバタしていそうな感じだった。でもってメールに書かれている文章は滅茶苦茶で、こちらが頭を捻りまくる程に「日本語になっていない」し、送金金額を間違えたり、先払い原則なのは以前の注文でわかっているハズなのに入金前に「まだ商品が届きません」と言ってきたり、商品の受け渡しを数回しただけでかなりのウッカリぶりを露呈してしまえる程の御仁だったのである。本番のステージは一体どんなだったのだか、見たいような見たくないような。噂では「変色」現象が起こるハズのところ、「増量」現象になって爆笑を買っていたそうである。ウッカリぶりはやはり演技にも反映されるのか。

大分前に在庫品をごっそり買い漁ってくれた人がいて、やはり「使う期日が迫っている」ようだったので、大急ぎで送ってあげたら「これで明日の発表会に間に合います。有難うございました」とお礼を言われた。

明日…ですか?

今日受け取った道具を明日使うなんて、一体…。見るのがコワイような、興味本位で見てみたいような…。

以前、プロの知人からこんな話を聞いた。仕事でショーをしにいったら、「アナタのマジックはタネがわかりません」と褒め?られたそうだ。ぇと――わかんないのがフツーなんですけどね。話を聞いてみると、以前その場所にアマチュアのお年寄りがマジックをやりに来たことがあって、その際、ネタがほぼ丸見えだったらしいのだ。ぁらら。それはヤバイでしょ…。

我が工房の商品もこの例のようにヤバイ使われ方をしている可能性は大いにある。こちらは供給さえすればいいだけで、どう使われようと関係ないことではあるが、やはり道具の特性を生かして、且つ「タネのバレない方法」で上手に使って頂いた方がいいのは当然だ。毛花というのは相当杜撰な使い方をしないとネタばれ自体「不可能」であるとは思うのだが、昨日今日で手順にぶっこむとなると、不可能は可能になるかもしれない。