陸章 毛花売りの少女

フシギな要望

名前から察するに年配の方と思われるお客さんから妙な要望があった。

このお客さん、注文の内容からしておかしかったので、その旨をご指摘して差し上げ、変更するなら入金前にお願いしますと書いておいたにもかかわらず、「入金しました」という連絡とともに「色を変えてくれ」と言ってきた。まーお客さんなんてこんなものか。

そんなことはともかく、店主に知らせる必要もない独り言(自分の経歴とか主義とか)をダラダラと書き綴ったメールの最後に、こんな記載が。

「納品は特に急ぎませんのでいつでも構いませんが、何月何日に発送するのか発送日を確定してお知らせ下さい。発送日が確定しましたらその日付厳守でお願いいたします。」

急ぎでないなら何も発送する日を厳密に指定してお知らせする必要もあるまいと思うのだが、何か事情があるのだろうか?不在がちで受け取り日時を知りたいというのなら、「平日の何時以降」等、「到着日」の方を先方から指定するものだろうから、そういうワケでもなさそうだ。この文面からは、単にこちらに「きっちり約束通りの仕事をさせたい」というだけに受け取れる。

そもそも、我が工房の商品は手作りなので、筆者の気分や体調によって仕上がる日は異なってくる。急ぎの場合はなるべく早めに仕上げるが、それでも配送が「確定」出来るのはその当日か前日なので、それ以前に「配送日を確定」して「その日付厳守で配送する」ことなど確約出来ない。なので相手の希望に忠実に沿うようにするならば、配送当日もしくは前日に「配送日確定のお知らせ」を出すことになるワケで、商品が仕上がるまで返事はしなくていいことになる。というワケでそのまま返事を出さずに放置したのだが、再び同じ内容のメールが届いた。仕方がないので下記のように返事をする。

「毛花は一点一点手作りするため、ある程度量がある場合は「おおよその配送日程」をお知らせすることは出来ても、下記ご希望に在るように「確実な配送日程」をあらかじめお知らせすることが出来ません。配送日が確定するのは配送日当日もしくは前日となりますので、下記ご質問に対しては今の所お返事する術がございません。商品が仕上がり次第発送いたしますので、今しばらくお待ちください。」

まー余り親切な対応ではないだろうけど、論理的には間違っちゃいないと思う。

というハナシをメールで友人に愚痴ったら、返事が来た。

「何で普通に『大体いつ頃に出来そうですか?』と訊けないんだ(笑)この際、工期をものスゴく長めに設定しておいて、それ以前に完成しても設定日まで手元においといたらどうでしょう?馬鹿馬鹿しいけど、相手は『まあ、ピッタリで届いたわ♪』なんて喜びそう…。」

面白いアイデアだが、筆者もそこまでイジワルではない。

もっとも、相手には最初に注文を受けた時点で「納品は大体一週間くらい」と知らせてはあった。

翌日、筆者の出したメールに件のお客さんから返信が来た。

「例えば一ヵ月後+余裕を見てとかで確実な配送日程が確定出来るのではないかと思いますが、出来ないというのは何かいろいろと事情がおありと思います。」

おやま、友人が授けてくれたイタズラの知恵とまるで同じコトをおっしゃる。

それにしても――だから「おおよその日程」なら伝えられるんだってば。事情って言うか、「確定」した日程は前日か当日にしか伝えられんのだってば。何故この人はここまで「確実な日程」にこだわるのだろう?

「ただ、注文した者としてはなんとも心もとない気がしますが、」

だから一週間程度って最初に言ったじゃん?覚えてない?それとも見落とした?

「たぶん製作には、その時のひらめきで作品を作っているのでしょうね。きっと素晴らしい世界一の毛花が送られて来るのだと思います。楽しみに待っています。よろしくお願いいたします。」

作品じゃなくて製品なのに…。

その上、

ひらめき???????????
世界一????????????

一体何を勝手に想像を膨らませて舞い上がっているのだろう?なんだかこの人の発する言葉の一つ一つが、何かしらピントをズラしまくっている気が…
さて、商品が完成したのでお客さんに発送し、連絡した。すると配送のお知らせに対して律儀にも返事が来た。しかしその内容にまたもやぶっ飛んだ。この人は人の話を聞いて理解する能力がないのかもしれない。イヤ、人の話を理解する気がそもそもないのかもしれない。

「二日前には発送の確定日を返事する術がないということで、発送が年末か来年の年明けと思っていましたので、発送がやけに早くてびっくりしました。」

配送日を「確定」出来ない理由は説明したハズなのに、まるで理解していない。その上何を根拠に納期が年末か年明けになると思ったのであろうか?先程から再三書いているが、注文から一週間程度で届けると、初めに申し上げたハズなのに。第一ビックリしようがなんだろうが、そんな事実は別にこちらに知らせる必要もない。

ひょっとしたら、自分の理解力がないのにも気付かずに、コチラを暗に非難しているのかもしれないが。

人の話はよく訊いて、出来るだけその人の意向に沿って理解するように努めよう、と、改めて心に誓った次第である。在宅毛花売りもイロイロと社会勉強になる仕事なのだ。