陸章 毛花売りの少女

そのバラください

ある天気の良い日の事。サイトに掲載するための商品写真を屋外で撮影をしていた。室内でストロボを焚いて撮るよりも、自然光の方が綺麗に撮れるのだ。モノはお客さんに頼まれて作ったバラの花束。

そこへ、通りがかった見知らぬオバさんに声をかけられた。いぶかしんでオバさんの方を向くと、こんなことをおっしゃる。

「そのバラ、もらえませんか?」

え~、フェザーのバラを本物と勘違いしたのはまあいいとしよう。しかし、傍目から見ても筆者はそのバラを使って何らかの作業をしているのは明らかだったハズである。バラを差し上げてしまったら作業が中断してしまう。何ゆえそこまでして見ず知らずのオバさんに自分の所有物をタダでくれてやろうという気になれると考えたのだろうか?

恐ろしく謎である。

まオバさんというのは世界中の何処ででも自分の常識が通用すると思い込んでいる方が多いので、この方もタダ単に欲しいと思ったから何も考えずにそう言ってみただけなのかもしれない。

因みにそのオバさん、ケーキの箱のようなものを持っていたから何処かへお使い物を持って出掛けるところだったのかもしれない。そこに花が加わったら箔が付く、とでも考えたのだろうか?
足取りも話し方も目つきも甚だ怪しいオバさんだった。ニンゲンのオバさんではなく、妖怪か何かだったのかもしれない。