陸章 毛花売りの少女

嫌がらせ電話

ある日、風呂に入ろうとしていたら、電話がかかってきた。もう夜半近い。家族からの緊急用件か、はたまた別件のイヤ~なお知らせの取り消し電話かと、かくも自分に都合の良い事を想像しながら受話器を取ると、いたずら電話っぽい不気味な間があった後、感じの悪い男の声がこう言った。

「お前の家の前や。○○号室やろ。ナメた真似しやがって」

ハテ?このアタシがいつナメたマネを?しかもダレに?

そして何故か関西弁だ。「家の前」にいるのはハッタリだろうよ。第一ウチの前に人が来れば必ず気配でわかる。で、風呂に浸かりながらつらつらと考えてみるに、ハタと思い当たる。ただし、もし電話の相手がその人物だとしたら当人の言う「ナメたマネ」をされたのには先方に責任がある。

少し前に、非常に評判の悪い業者から商品の注文があった。初めはその業者だと気付かなかったのだが、なんだか注文の内容がおかしい。単体では機能しない商品を単品で注文しているのだ。リピーターならともかく、普通のお客さんはこんな買い方はしない。そして注文者の住所を見てハタと思い当たり、素性を探ってみたら、案の定、噂に訊いたことのある悪質業者だった。係わり合いになりたくなかったので、いろいろな人に相談した上、「製造元の都合」ということにして(まー嘘ではない)、販売しないことにした。しかし既に入金口座を知らせてしまってあり、人に相談しつつ、どうしようか迷っているうちに入金されてしまった。返金するための口座を訊ねたのだが、トンと返事が来ない。仕方なく送金手数料も含めて現金書留で送った。

アブない人だと聞いていたので、何をされるかわかったものではなし、封筒には住所も電話番号も記載しなかった。しかし、アブない人ゆえ、嫌がらせをするためだけにそういった個人情報を調べ上げたりもするのだろう。そのくだらないエネルギーをもっとマシな方面に注いだらいいのに、とか思ったり。電話の相手が件の業者だというのはあくまで憶測なのだが、他に思い当たる人物はいないし、本人を知る複数の人によれば、「アイツならそういうイヤラシイ事はやりかねない」ということだった。

さて、このしばらく後に、知人から電話があり、筆者とも面識のある人からこんなことを頼まれたんだけどー、と、言いにくそうに切り出された。なんでも、我が工房のレクチャーDVDを買って送ってくれないか、と言われたのだと言う。その方もウチの連絡先を知らないワケでもあるまいし、自分で注文すればいいじゃん、と知人は言ったそうなのだが、なんだかヘンな理由を付けて「名前を出したくないから」と食い下がったと言う。あくまで別の人経由で商品が届くようにして欲しいのだとか。この知人には嫌がらせ電話の件も話してあったので「あの業者とつるんでいる可能性もあるかもー」と懸念を伝えてくれたのだった。結局イベント会場で「筆者とも面識のある」当のご本人が商品を買っていったのだが、ズバリ訊いてみると、あのアブない業者の使いではなく、あくまで他のお客さんの依頼だという。てことはナニ、そのお客さんとやらは間に二人も経由して買い物をしなければならない程素性の怪しい人なのだろうか?或いはアブない業者がそのお客さんを経由して商品を購入しようとしたか?――謎は余計に深まった…。