伍章 外国でも七転八倒

ドイツで「シゴト」

ある年の秋、約三週間に渡ってドイツに出掛けた。その前の年に知り合ったドイツ人青年の計らいで、彼の運営するマジックフェスティバルと、ベルリンで行われたイベントに出演する事になったのだ。

ドイツはそれまでに三回訪れた事があった。一般的なドイツ人のイメージは「堅苦しくて杓子定規」等余り良くはないようだが、筆者はこれまでのところ良い印象の方が強く、ドイツにはかなり好感を抱いている。

初めてドイツに行った時、到着したその日、宿泊先の受付でイベント会場の場所を訊ねていると、僕も今から行くから一緒に行こうよ、と声をかけてくれた青年がいた。英語が上手く、明るくて気のいい人だった。初めて交流したドイツ人がそんな人だったため、その後のドイツのイメージが良くなったのかもしれない。

その後に知り合ったドイツ人も、総じて礼儀正しく、約束に忠実。筆者が「人として持つべき最低条件」を難なくクリアする人々ばかりだった。契約の関係ではラテン諸国の人々に振り回されててばかりいたので、こういった用件には慎重になっていたのだが、この手の事には実にきっちりしているドイツ人に関してはそんな心配は全く無用だった。

実際、彼らはこちらの期待以上の事をしてくれた。

ベルリンの方では英語とドイツ語の契約書を各二通ずつ送ってくれた。それによると、筆者の側が出演をキャンセルする場合は契約書上の出演料と同額を先方に支払わなければならない事になっていた。こりゃ、病気も怪我も出来ない、なんとしても行かねば!と思ったのだが、その事を後日主催者の方に冗談めかして話したら、災害や病気など、不可抗力の場合はこの限りではないという事だった。これはドイツの法律で定められている事柄らしい。また、マジックフェスティバルの方では、約束されていた金額の二倍以上が支払われた。余りにも多過ぎるので、一体どういう事かと訊いてみると、予定より収益があったので、出演者の間で等分に配分した結果なのだという。これも法律で定められているのだとか。イヤハヤ。ドイツになら何度出稼ぎに出掛けてもいいなと心の底から思ってしまった。