四章 マジック界の困った人々(男子編)

ご笑納

ある時、覚えのない名前の人から宅配便が届いた。何かと思ったら、少し前に出演したイベントの記録ビデオだということだったのだが、筆者は撮影されていたことすら知らなかったというのに、同封の手紙には「ビデオ撮影を快く了解頂き、有難うございました」と書いてあるのだ。

いつ誰が快く了解したんだよっ!!!!!!

通常、筆者にビデオ撮影の打診があった場合、撮影を拒否するか、一切外部にコピーを出さないことを条件に撮影を許可することにしている。演技は出来るだけライブで見てもらいたいと考えているからだ。なにしろマジックをビデオで見ると著しくつまらない。また、研究好きな若者の研究対象として繰り返し見られるのもたまったもんじゃない。

というのに。この団体はショーの内容を丸ごと送りつけてきたのだ。てことは他のゲストにも筆者の演技の映像が入ったビデオが届けられてしまったということだ。

「了解頂き」と書いてある以上「了解を取らなければならない事項」という認識は先方にもあるワケだ。ただ、了解を取る対象から筆者だけ漏れていたらしい。そこでしかるべき対処をしていただくために、ビデオテープの送り主に連絡を取ったのだが、半分ボケたような爺さんが出てきて「一応皆さんに了解を取ったんですけどね」と繰り返すばかり。こちらが確認された事実がないと言っているのに、こんな物言いは言い訳にすらならないではないか。更には「記念に送ったのでね」とワケのわからない理由を並べ立て、こちらの意向を汲んで事態を収拾しようという誠意はまるで示してくれなかった。

はっきり言って、このイベントのスタッフの抜けっぷりには辟易していた。一番頼りになりそうな人が急用で当日来られなかったことが原因でもあるのだが、リハの段取りは最悪、連絡事項もまるで伝わってこない、本番の照明はまるでリハと違う。スタッフが余りにあてにならなさそうだったので、幕開けのキュー出しを舞台に立っている自分自身で行った。筆者のキャリア史上初めてのことである。が、こんなことは、まー「手際が悪い」とご愛嬌で済ませていられたが、ビデオの件は余りにも酷過ぎる。手紙には社交辞令的に「今後も何かご協力をお願いすることもあるかも」なんて書いてあったが、たとえホントに何かを頼まれたとしても、こっちからは願い下げ申し上げたい気分だ。

手紙には「至らぬ点が多々あった」なんてことも書いてあったが、こういう社交辞令が真実味を持って感じられるケースも実に珍しい。でもって件の物件を「ご笑納ください」なんて書いてあったが…誰がそんなこと出来るかというのだ。怒りと共に先方に突き返したのは言うまでもない。