四章 マジック界の困った人々(男子編)

失礼な人々

ある朝、届いたメールの数が妙に多いと思ったら、なんと同じ人物からの全く同じ内容のモノが六通もあった。

彼とは外国のイベントで一度だけ会ったことがある。その時筆者はゲストとして招待されていたのだが、こういう所には誰構わず「有名そうな人」と写真を撮りたがる輩がいるもので、筆者自身もしばしばそのターゲットにされていた。まー別に迷惑という程でもないし、イロイロ勘違いがあるとはいえ、好意を持ってくれているお客さんは有難いものなので、快くリクエストに答えていた。彼はそういったお客さんのうちの一人である。

まず、帰国後に彼から妙なメールが届いた。会場で一緒に撮った写真が数枚添付されたもので、本文には「May I friend with you ?」とか書いてある。英文間違ってるし。要するにお友達になってくれる?と言っているんだろうが、何をどうたどって我々がお友達になる道筋となったのだろうか?我々は一緒に写真を撮っただけで、ロクに会話を交わしたワケでもない。それにこんな写真を送られても。君は「有名っぽい」と自分が考える人と写真を撮れてラッキーだっただろうが、こちらは名前も顔もよく覚えていないお客さんの写真を頂いても…。とあるホントに有名なマジシャンは、こういう写真をもらってしまった場合、本人の見ていない所で速攻捨てるんだそうだ。この話を聞いた時、ちょっと酷だなーとは思ったが、その手合いはきっと山程いるのだろう。いちいち保存していてはやっていられないのかもしれない。

で、最初のメールからしばらく日を置いて届いた六通のメールの内容は。

自分のサイトをオープンした。そこに君の写真を載せた。「有名な人」のセクションと「コンベンション」のセクションにあるよ!来年の秋、中国でコンテストに出るよ。見ていてね!

本文の文法は相変わらず滅茶苦茶。スペルも間違いだらけ。英語が苦手にしても、せめてスペルチェックくらいしようよ…。だけどメールのサブジェクトは「hi,how r u in Japan?」と、英語がヘタな割にはネイティブが使いそうな略語を使ってるし。

なんかホントにお友達のノリだなぁ…。

こういったイベントで一般参加のお客さんと実際に親しくなる事はあるのだけど、それはあくまで何かしら共通の話題があって話が弾んだり、一緒にいる時間が長くてある程度親しくなった場合だ。人を待つ間にショッピングモールを案内してくれた韓国の女子大生マジシャンとか、筆者が出演したマジックショーの主催者と近しい関係だったために顔見知りになり、どさくさに紛れて結婚式のビデオ撮影スタッフに抜擢してきたご夫妻とか、そんな人からこのようなメールをもらうんだったら別におかしくもないのだけど。自分だったら、一緒に写真を撮っただけの、しかも自分が「有名」だと目する人に対して、こんな気安いメールは出さないと思う。

これとは全然別の話だが、異様に社会常識の欠落した失礼な若者もいる。香港人の彼、自分の知人から筆者を紹介されるや、「○○さん?」と別の日本人パフォーマーの名前を挙げた。まーガイジンの顔は全部一緒に見えることもあるから、百歩譲ってこれはよしとしよう。で、初っ端から彼に良い印象は持てず、あんまり気は進まなかったのだが、なんとなく成り行きで名刺を渡してしまった。帰国後、そんな彼からメールが届く。その内容は。

「アンタから名刺をもらったけど、顔忘れちゃったんで写真を送ってくんない?」

えーっと、顔も忘れたような相手のことなんか、どうでもいいじゃんよ。名刺を処分して、ハナっから会わなかった事にしてしまいなさい。

そんな彼と再び出会う機会があった。筆者と顔を合わせるや、彼の第一声。

「アナタ、なに子さんでしたっけ?」(原文ママ。彼は殆ど用を成さない程度に日本語を話す。)

たとえホントに名前忘れてしまったのだとしても、本人に向かってこんなダイレクトにその疑問をぶつけるか?フツー?因みにこの時筆者はゲストだったので、イベントのプログラムを見れば名前の確認くらいこっそり出来たハズである。が、彼の頭の中には「失礼」という概念がそもそも存在しないのかもしれない。だとしたらそんな繊細な知恵が回るワケもないだろう。