四章 マジック界の困った人々(男子編)

マジシャンの結婚式

プロ・アマを問わず、マジシャンという人々とは余り親しく付き合っていないので、「マジシャンの結婚式」というものに出席したことはなかったのだが、ひょんなことからマジシャン夫婦の式及び披露宴に潜入する羽目になった。

式の一ヶ月くらい前に、新郎の方から毛花の注文が舞い込んだ。披露宴でブーケ代わりに使いたい、とおっしゃる。それはまーいいのだが、結婚するということを聞いた以上、知らない間柄ではないのだから、ココはその注文品を結婚祝いとして差し上げざるを得ないではないか。そんなこんなでご結婚されることは知っていたのだが、式に呼ばれる程親しかったワケではない。ところが、その毛花の受け渡しなどしているうちに、筆者はいつの間にかビデオ係として式に出向く事になってしまった。

フツー、結婚式でマジックと言ったら、式付きのマジシャンや新郎新婦の友人がが余興として行うものだろうけれど、新郎新婦自身がマジシャンの場合、まー想像はしていたのだが、本人たち自身がマジックを披露するのである!

さて、厳かに式が執り行われた後、披露宴会場へ。この披露宴、想像以上にマジックショーで占められていた。新郎新婦がマジシャンなら、司会者もマジシャン、更に新郎が親しくしているマジシャン夫婦が二組出席しており、当然のことながら彼らもショーのメンバーとして引っ張り出されていた。なにしろ司会者すらマジックをやってしまうのだから、マジックがないのは、マジックとマジックの間の準備時間のみ。実は前日に、急遽欠席をされた主賓(この方もマジシャン!)の代わりに一ネタやってくれんかね?と筆者も頼まれたのだが、撮影と同時では無理だし、大体こういった場所にふさわしいネタ自体を持っていないので、断った。しかし――実を言うとマジシャンが一人抜けてちょうど良かったくらいなのである!仕舞にはげっぷが出そうな程のマジックテンコ盛りぶりだったのだから!ご参列の親戚の方々は一体どのように思われたのでしょう???

演目は、本格的なイリュージョンから、コメディーショー、カードマニピュレーションまで、多種多彩。「マジックコンベンション(※)みたいだね」と仲間内で言っていたが、廊下の隅に衝立で仕切って作られた控え室は、まさにその舞台裏そのもの。実にバタバタと忙しい披露宴だったが、実のところ、この饗宴を最も楽しんだのは、新郎ご自身だったのではないかな(花嫁も一応マジシャンではあるが、ダンナ程のめりこんでいるワケではない)。披露宴では結局、挨拶回りなどで忙しくて「楽しい」というより忙しいばかりで終わるのが普通みたいなのだけど。そう言えば彼ら、普通の新郎新婦が忙しくなる理由である所の「各テーブルを回って参列者に挨拶する」という仕事、やっていたっけ?

既婚の男性マジシャンに訊くと、自分の結婚式では誰もがここぞとばかりに何らかのマジックを披露したそうである。ヤハリ、自己顕示欲の強い彼らのことだからね。想像に難くない。女性だけマジシャンというパターンは一例しか知らないのだが、彼女の場合は「親戚の人にはなかなか見てもらえる機会がないから」という理由で、彼女の代表作を一つだけを演じたそうだ。「何が何でも結婚式にはマジックやりたい」というのとはちょっと違う。因みに筆者は結婚する予定も式を挙げる予定もないので、自分の場合についてはなんとも想像し難いのだが、万に一つ機会があったとしても、自分では何も披露しないのではないかと思う。

※マジックコンベンション
マジシャンばかりが集まって、日がな一日マジックを見たりやったり研究したりと過ごす酔狂なイベント。マジックに限らず、このような「専門家が集まる国際会議という名の酔狂なイベント」が方々で開催されているようだが。