四章 マジック界の困った人々(男子編)

主観無限大の幸福な男

驚異的な主観のカタマリ男とのお付き合いはコレでは終わらなかった。この年以降毎年開催される事になった同じイベントに、筆者は何らかの形で参加し続け、その度に地元民であるこのお方も会場にやってきたからである。

ところで、第一回目の時、彼はやけに威張り散らしながらショーのリハを取り仕切っていたように「見えた」ので、筆者はてっきり彼が舞台監督なのかと思っていたのだが、実際の所、ちょっかいを出しに来るだけで肝心な時(つまり本番)は専ら自分の気に入りのマジシャンに声援を送る事に忙しく、舞台監督たるコトなどまるでしていなかったそうだ。はっきり言って役に立たない、どころか現場を引っ掻き回すだけで大いに迷惑なので、イベントの事務局は頭を痛めていたらしい。なので第二回目には「手伝わなくていいから、客として参加して、会場で自分のプロモーション活動に専念したらいいよ」とそれとなくスタッフ枠から追い出そうとしたものの、彼はまたもやリハの会場に現れた。そして勝手に押しかけてきたにも関わらず、あろうことか、「参加費要りませんよね」とのたまったそうである!うわぁ…。

そんな場面を何度となく見て、また事務局から直接裏話を聞くうちに、見るに見かねて裏方の人材としては大いに不足のある筆者自身がスタッフをする事になってしまった。司会者へのキュー出し、リハの進行アシスタントなどなどが役割で、ワタシとしては協力することには全くやぶさかでないので、その点については問題ないのだが、まー慣れていないシゴトなので大いにアタフタしてしまった。そんなところへ!筆者より余程優秀な友人が本番直前に登場!筆者の復習も兼ねて彼女に大雑把な情報を伝え、本番では音響・照明さんの脇に立っていてもらうことになった。

さて、本番もなんとかかんとか終わり、片付けをしているところへ件の問題児が現れ、彼女に向かって大変オモシロイ発言をなさった。

「いやー、いてくれて助かりましたよ」

ぇと。彼女がこんな風にシゴトをしなきゃならない状況はほぼアナタのせいなんですが。因みにこの時も彼が事務局から正式にシゴトを頼まれたという事実はなく、勝手にやって来てスタッフ面をしていただけのようだから、上の発言はまったくもって立場をわきまえていないモノである、という事も言える。イヤハヤ。そもそも自分が迷惑かけてるって事実に全く気付いていないに違いない。
御目出度いヒトは更に笑えるコトを言った。

「裏方って面白いでしょー?」

ぁの。ソレは誰に向かって言っているのでしょうか?彼女は自らの経験を自慢しいしい吹聴するなんてコトは決してしないからわからないだろうケド、裏方に関してはアンタより彼女の方が一億倍くらい優秀ですってば。イヤ、人類の誰もがアンタよりは優秀だと思う。

それともコレラの発言はなんかのギャグかコントのつもりだったのだろか?

で、それ以外にも――この界隈の大御所を捕まえて自分が如何に物知りであるかを延々としゃべり続けてウンザリさせたり、やはりリハではエラソーに指示を出して手伝いの学生さんを混乱させたり(彼の言うことは無視していいから、とフォローに走るアタシ)、そんな様子を見ていたゲストの方に「何なのあのヒト?」といぶかしがられたり、方々で顰蹙を買っていたらしい。そしてどういうワケかこのワタクシに対してはいつの間にか敬語で話しかけるようになっていて、それもそれでキモチ悪い。だって初対面では「アンタ」呼ばわりだったのだから。そして自由参加プログラムで彼が行った演技は以前に増して表現力・客観的視点を欠いており、誰の心にも響かなかったようだ。そういう事実に気付けないのは、ハタから見れば不幸この上ないのだが、本人にしたら自己嫌悪に陥ることはないので相変わらず幸福なのかもしれない。

ふと思ったのだが、彼には客観性が欠けているのではなく、「無い」のであり、それは先天的な情緒障害で一生治ることの無いビョーキなのかもしれない。どうせ言っても聞かないから、周りのヒトも諦めていて誰も注意しようとしない。筆者から見たら、やっぱりこのヒトは不幸であるように思える。