四章 マジック界の困った人々(男子編)

イロイロ意見を言ってみたいお年頃

知人に誘われて、昨今じわじわと世間に浸透してきているSNSの会員になった。イマイチ美味くないギョーザ屋でその知人と食事をしつつ、その話を聞いた時には何の事だかピンと来なかった。後日、知人から招待メールが届く。既にメンバーになっている会員からの招待がないと入れないシステムになっていているらしい。

初めは真面目に覗きもせず、ふざけた写真を日記ツールにアップしてお茶を濁していたのだが、このSNSには結構多くの知り合いが参加しているようで、彼らの動向が見えてくるとだんだん面白くなってきた。そしてたまたま発見した知人のページに登録されている知人をたどると、ずるずると、出てくるわ出てくるわ、芋ずる式に知り合いが!

SNSは、似たような興味を持つ人々が繋がりを持てる仕組みになっているので、このように取っ掛かりさえあれば知人の知人をたどって知人にたどり着く、なんてことが起こりやすい。そんなこんなで、他人に見られる部分については下手なこた書けないワケだ。まーネットは世界中に繋がっているのだから、いつ誰にでも読まれる可能性があるワケで、何処であろうとネットに載せる文章にはそれなりに気を使ってはいるのだが。

で、件のSNSの中をウロウロしていると、つい先日参加したイベントの感想を書いた日記にぶち当たった。筆者の知人が何人も出演していたので、ちょいと目を通してみると。むむ。出演者一人一人の演技に対して素直な感想を述べているのだけど、たま~に的外れな内容も…。なんだかビミョーに素人臭さが漂うなぁ。まー人々の価値観はイロイロだから、それぞれ思うトコロは違うと思うんだけど…素人臭さの漂う段階で、対象が誰だかを明言した感想文を人目につく所に載せてしまう大胆さが、コワイ。筆者の知人の一人についても結構厳しいことが書いてあったのだが、「(本人の知人を通じてこの文章を見られる可能性がなくもないから)余り言いたくはないのですが」という内容の前置きまでしてある。そう思うんだったら、こんな所に載せなきゃいいのに。

でも、イベントに参加したり、人の演技を見たりすると、イロイロと書きたくなるという気持ちはわかるのだ。かく言う筆者も昔はそうだった。大学のサークルの発表会を見た後なんかに感想をシコシコ書き記して後輩に渡したこともあった。だけど、結局それは演技をする人のためではなく、書く人本人の自己満足なのだ。だから自分のためだけにこっそり何処かにしまっておけばいいものの、誰かに読んでもらいたい、それについて誰かと話したい、という欲があるのだろう、きっと。

ちょうど同じ頃、ウロウロついでその感想文で厳しいことを書かれていた知人の存在も発見してしまった筆者は、彼について厳しいことが書かれていたことも忘れて「そう言えばあのイベントの感想文を見つけたよ」とウッカリ伝えてしまった。良い事が書いてあろうと、悪いことが書いてあろうと、当然本人は読みたがる。些かアサハカであった。彼自身は自分の演技に迷いがあるという自覚があるので、そのレビューを真摯に受け止めていたのだけど、内心複雑だろう。きっとレビューを書いた方は、本人の足跡(サイトを訪れた履歴)を発見してびっくらするだろう。

マジックの演技に関する他人の意見は案外参考にならないことが多い。大体の人が主観を排さずに思ったままをあけっぴろげに話してしまうからだ。また、衣装・道具・技術について等、一見して誰でもわかるような表面的なことしか言ってくれない。練習や熟考だけではどうにもならない、客との呼吸の合わせ方だとか、視線の配り方、間の取り方などなど、パフォーマーとして大切なことを説いてくれる人は滅多にいない。だから、筆者自身は他人の演技に対しては余り意見を言わないようにしている。パフォーマーの実名を出してレビューを書く時はあくまでイベントの内容紹介の域を超えないようにしているし、演技については良いことしか書かない。

ある時、自分の手順にいろいろと変更を加えたらしい知人が、ちょっと不安交じりの表情で、何か言って欲しげに「どうでした?」と訊いてきたことがあったが、筆者は彼女が前から持っている彼女の演技の良さを改めて繰り返しただけだった。新しい演技をビデオなどで確認すれば、彼女は自分自身でいろいろ気付くことが出来る人だからだ。

さて、後日、どういうワケか件のレビューを書いた本人が筆者の前に現れて「今後は気を付けます」などと言ってきた。彼とは全く面識がなかったのだが、人伝に「こういうバカなコゾーがおった」と筆者が言いふらしていた事実を耳にしたらしい。まーバカなコゾーだと思ったのは確かだけど、だからと言ってこのコゾーを非難しているワケでもない。その上、彼の実名や顔を知っていたワケでも本人を特定してウワサをばら撒いていたワケでもない。だからこのコゾーさんは筆者に対して何かを取り繕う必要など全然ないハズなのに、何をワザワザ「あのバカはボクでした」と自ら申し出るようなことを?「今後は気を付けたい」のなら、自分自身にそう誓って勝手にやってくれればいいのに。そもそもこういったピントのズレた御仁であるからこそ、おかしなレビューを人目につく所に掲載する、なんてピントのズレたコトをしでかしてしまうのかもしれない。