参章 マジック界の困った人々(女子編)

値切りのオバさん

某国で行われたイベントで出演者の中に中国系の男の子がいた。中国伝統芸の変面をやっていたのだが、あーゆーのって、お手軽な売りネタが出ているらしいから、そういう類の芸なのかもしれない。本人曰く「僕の演技は結構オリジナル」だそうだが。しかし、主催者サイドによると、どうもその子のママが「ウチの子を出演させろ」と言って来たため、半ば仕方なく入れたらしい。てことは彼の演技もさほどのモノでもないのかもしれない(本番は袖にいたので実際の演技は見られなかった)。で、その子のママは息子を出演させる代わりにショーのチケットを幾らかさばくという事だったのだが、結局数枚しか売ってくれなかったらしい。困った親もいたものである。

ところで、思いがけず、この困った親に実際に遭遇してしまった。イベントの数日後、同じ国のとある場所でやる気なく毛花を売っていた時である。件の男の子が声をかけてきた。彼自身は、まー嫌味のない感じの良い子だったのだが、傍らにいていろいろ口出ししてきたママは、「なる程、この人ならそんなずうずうしいこともやるだろうよ」と思わず納得のキョーレツなキャラだった。そりゃ「ウチの子」を人前に出すために金まで払うと嘯くような親である。キョーレツでない方がおかしいのだが。

ところで、日本以外のアジア諸国では、定価を記した値札があろうがナンだろうが「取り敢えず値切る」のが買い物する時の礼儀であるようだ。しかし、その辺の市場と違って、こちらの設定した価格は値切られることを前提としているワケではないので、そうそう易々と価格を下げることは出来ない。友達やお世話になった知人なら値引きはするし、無料で差し上げることはあるが、初対面の客一人一人の値切り要求に応えていたらキリがないではないか。

代わりに、顧客のしつこい要求をなだめるため、まータダであげてもそれ程損せず、且つ万人の役に立ちそうな商品をおまけに付けてあげる作戦に出る。これで大体の客はおとなしく引き下がってくれるのだが、件のキョーレツなママにおいてはそう簡単にはいかなかった。

彼女の息子がレクチャーDVDを買いたがったのだが、なんとママは商品を買う前にケースを開けて中を見ようとした。息子が慌てて止めようとするも、彼女はお構いなく開けてしまい、しかもDVDの表面に触るではないか!何のために?品質の確認?てゆーか、そーゆーことは自分のモノになってからしてください!
で、買う段になって、案の定、割引をしろと迫るので、おまけを一つ付けてあげると、至極不満顔の彼女。仕方なくもう一つ付けると、こいつもタダでよこせ、と別の商品を勝手に袋に放り込む。イヤ、これ以上はダメです、と言って、DVDの値段+追加の商品の値段を請求をすると、そんなお金払えないわ!という顔をして、付け足した商品を慌てて袋から放り出した。

なんという――品性を欠いたオバさんなのでしょう!あの世界最強の生物、大阪のオバチャンの方がまだ礼儀をわきまえています!

さて、このオバさん関連の攻防はまだ続いた。彼女の娘も一緒に来ていたのだが、兄貴にも母親にも似ず、割合美人のお嬢さん。しかし性格はオバさんの娘であることをはっきりと物語っていた。彼女は大胆にも次ような取引を申し出た。

「このDVDを買ったら、この商品をタダで頂戴」

DVDは二千円、お嬢さんがよこせと言ったのは千五百円の商品である。即ち三千五百円を二千円に負けろ、と言うのである。んなァホな。そんな理不尽な取引などしない方がマシである。彼女は商品の値段を知らないのではない。コレとコレは合せて幾ら?と訊ねてきた後の話である。この子は余程算数が苦手なのか、余程こちらをナメているのか、あるいは余程ずうずうしいのか。で、彼女は一度断られたにもかかわらず、再び同じ事を言ってきた。だからさっきダメって言ったじゃん。どんなに美人顔でにっこり微笑んだって、このおねーさんには通用しませんから。彼女のずうずうしさはママの上を行っていたかも。彼女の将来がコワイ。