アボカドの話

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最近だんだんポピュラーにはなってきたものの、未だに「アボカドを食べた事ない」「あるけど不味かった」という話をよく聞く。そして不味かったという人の大半は、食べ頃でない物を食べてしまったのがそう思った原因である事が多いようだ。

アボカドは、皮の色が真っ黒になり、少し力を入れて触るとヘタがポロリと落ちる時、それが食べ頃なのである。早過ぎればゴリゴリしていてあの独特の食感を楽しめないし、遅過ぎると内部が黒く変色してしまって味が著しく悪くなる。大体店に出ているのは食べ頃前の物が多いので、買ってからしばらく室温に置いて時期を待たなければならないのだ。また、日本ではまずないが、カナダの中華系マーケットでは、食べ頃をとうに過ぎた、外見がしなびて見るからに不味そうな物を4個1ドル程で売っている事がある。これは実際、間違いなく不味いので、買わない方が良い。(←買ってしまった人)

何がきっかけだったのか良く覚えていないが、幸い筆者はアボカドとは良い出会い方をしたようで、これは好物の一つである。日本では一個100円以上するし、生鮮食品の安い北米でもそこそこ良い値段がするので、余り頻繁には買わないが、たま~に手に入ると、薄切りにして醤油をたらして食べるのが常だ。大きめにざくざく切って、他の野菜と和えてサラダのようにして食べるのも美味い。

また、カナダはビクトリアの観光案内所のすぐ目の前に、「Sam’s Deli」というサンドウィッチ屋があるのだが、ここは量も十分な上、使っている材料も新鮮で、またその景気の良い使いっぷりに頭が下がる。半分に切ったアボカドをそのままくり抜き、サンドイッチの具の上にどかっと載せ、その場で大胆にチョップして、がしっとパンで挟み込む。アボカドをオプションで付け足すと結構値がつり上がるのだが、目の前で半分くり抜きチョップを見せられてはひとたまりもない。注文したローストチキンサンドに迷わずアボカドを付け足した。

ところで、日本の皆さんは何故かこの食物のことを「アボガド」とおっしゃる事が多い。今これを読んでいて「は!」と思われた方は多いはずだ。事実、筆者は日本人が「アボカド」としっかり発音しているのを聞いた事がないのだ。スーパーの値札にだって堂々と「アボガド」と書いてあるし、某人気料理番組でも名のある料理人の方々が揃いも揃って「アボガド」と言っているので、ひょっとして自分が間違ってるの?と思ったものの、英語表記では間違いなく「avocado」だし、発音記号を見ても例外的に「が」の発音を強いるような指示はないようだ。そこで今ふっと思いついたのが、化学者の「アボガドロ」だ。確か中学から理科の教科書に出てきた気がするので、結構人々の記憶に残っている名前に違いない。この単語が頭にあって、なんだかそれに合せて「が」にしてしまっているのかもって、そんなことはないか。

全然別の話であるが、知り合いになったフレンチカナディアンの女の子が、カリフォルニアロールが好きだというので、作ってあげた事がある。その時彼女が教えてくれたのだが、まず、アボカドはフランス語では「アヴォかぁ~」と、気の抜けたような発音になるらしい。そして。なんと「弁護士」も同じ綴りで同じ発音なのだという。まあ、ネイティブスピーカーが言っているので間違いないだろうが、「なんで~?ヘンなの~」と思っただけで、その場はやり過ごした。そのしばらく後に、日本で「お見合い放浪記」というドラマを見ていたら、フランス語翻訳家の主人公がお見合いした人の職業をフランス語で次々に読み上げる場面があった。フランス語の職業名など何一つ分からない筆者であるが、一つだけ、音と意味が一致したものがあった。勿論それは「アヴォかぁ~」である。

最後にもう一つ。これは結構重要な話だ。日本の皆さんがよくおっしゃる「アボガド」だが、これはギリシャ語で男性の体の一部を表すものらしい。おじいさんがギリシャ人だというトルコ人の女の子から聞いたのだが、筆者が「アボガド」と言い間違えた時、彼女が妙に取り乱していたので、どうしたのか聞いたらそういう事だった。英語もロクに喋れない日本人がいきなり英会話の中にギリシャ語を混ぜ込むかよ~って気がしなくもなかったけれど。

そういう訳で、この場で言い間違いに気が付かれた方は、これからは改めた方が良いかも知れない。ま、ギリシャ人やギリシャ語の分かる人に会い、かつそこでアボカドの話をするような事は滅多にないだろうけれど。