韓国
第1節 韓国のフツーな人々

我々は韓国人?

仕事が恐ろしく暇だというだけの理由で行く事になった韓国。話はどんどんあさっての方向へ膨らみ、何故か現地でマジックショーに出演する事になっていた。申し遅れたが、筆者はごくたま~~~~~に、ギャラを戴いて人々の前でマジックを披露する「ときたまプロ」のマジシャンなのである。以後、お見知り置きを…。

ところで、筆者が学生時代に所属していた大学のマジックサークルに、第二外国語として韓国語を選択していた後輩、Nがいた。彼女は授業がなくて恐ろしく暇な最終学年の秋に(卒論はなかったのだろうか?)韓国に語学留学までしている。今現在でも日常会話はお手の物だ。

後輩Nはマジックサークルでは会長まで務めたものの、卒業後はマジックとは全く疎遠になっていた。そもそも、マジックが好きで会長になったというよりも、同学年の他の男どもがフヌケ揃いだったため、相対的に一番しっかりしていた彼女にお鉢が回ってきたという経緯だったらしい。そんな訳で、これまで何度かマジックのイベントに誘った事はあったが、毎回ナシのつぶて。が、場所が韓国となれば話は別だ。実際のところ、この時もマジックショー自体はどうでも良かったらしい…。

当時、SARSが大流行した直後だったので、彼女は初めのうち「国際線の空港に行く事自体が怖いかも」などとほざいていたのだが、いつの間にか「韓国旅行の日程がわかったら教えてくださ~い♪」という反応に変わっていた。韓国の引力には疫病も形無しだったらしい。ま、そんな成り行きはともかく、仕事の都合で筆者より後から韓国入りした彼女とは、連絡不行き届きのトラブルに苛まれた末、何とか現地で合流できた。

ところで、韓国ではホントにもう、至れり尽くせりのもてなしを受けてしまった。「一体アタシ達は何様!?」と何か勘違いしてしまいそうなほどだった。マジックショーの打ち上げにスタッフや他の客人達とプルゴギの鍋を囲んだ後、ま~、それはそれはいろんな所に連れ回してくれるわ、夜半過ぎに、またまた焼肉を食べさせてくれるわ、ハテは怪しい娼婦街を見学させてくれるわ…。韓国人の熱~い一面をまざまざと見せ付けられ、我々は実に気分良く韓国の短い滞在を楽しんだのだった。

そんな中で、自称プロのコメディアンだという謎の男が何くれとなく我々に世話を焼きながら「君達韓国人顔だね~~~~」と言ってきた。韓国人も日本人もそう顔つきは変わらないと思われがちだが、韓国人からすれば、大抵見分けはつくそうで、ソウルの市場を歩いていれば日本語で話し掛けられる事も多い。また、マジックショーのチケットの受け渡しのため、お互い面識のない韓国人の友人と後輩Nとが初対面する事になったのだが、電話で打ち合わせをしたところ、「その会場に日本人は他にいないはずだからすぐわかるよ」と言われたそうだ。そんな風に韓国では常に日本人に見られていた経緯があったので、所詮コメディアンの言う事だ、と、我々は一笑に付した。

ところが。

翌日、街へ買い物に出掛けると、どの店でも店員から韓国語で話し掛けられる。帰りの飛行機に乗り込む時には「あんにょんはせよ」と言われる。因みにすぐ後ろにいた別の日本人には「こんにちは」だった。スチュワーデスには入国カードを渡されそうになり、「いるぼんさらみえよ~(日本人ですよ)」と言ったら、「しちゅれいしました~」(なんかカワイイ)と恥ずかしそうに去って行った。食事の時にも「飲み物は?」と韓国語で訊かれ、筆者も調子に乗って「めっちゅじゅせよ~(ビールください)」と言ったら、何の疑いもなく「どうぞ~」という韓国語と共に渡され、飛行機を降りる時もやっぱり「あんにょんいかしぷしょ~」だった。

筆者はこの旅行の最中に現地で眼鏡を新調した。韓国の眼鏡というのは小さめの楕円形で、ちょっと特徴的な形である。そんな物を掛けていたから余計に間違われ易かったのかもしれない。

一方、同じくコメディアンに韓国人顔と言われた後輩Nの方は。

マジックショーの会場のある大学構内を歩いていたら、男子学生にナンパされたらしい。「今、友達と約束してるから」と韓国語で言うと、「うわ!韓国人じゃない!?」と驚かれたそうだ(日本語訛りがあったのか?)。

また、マジックショーの休憩時間に、スタッフが彼女にビデオカメラを向けてショーの感想か何かをインタビューしてきた。早口でよく聴き取れず、答え損ねていると、「外国人か…」みたいな事をいいながら去って行ったそうだ。

そして、帰りの機中(やはり仕事の都合で帰りも筆者とは別便)、毛布が欲しくて「ブランケット」と単語だけ言っただけなのに「今は全部出払ってしまって残ってないのよ」みたいな事を韓国語でペラペラと説明されてしまったそうだ。

いやはや。

我々の事を韓国人顔だと言った件のコメディアン、顔の表面の凹凸感が後輩Nの上司に似ていたらしい。「上司に似ていたコメディアン、侮れぬ…」と、後日、2人して感じ入った次第である。