韓国
第1節 韓国のフツーな人々

おばあちゃんの家

前回の訪問から4ヶ月と置かず、母と叔母を連れて再び韓国へ行く事になった。さぼり気味だった韓国語学習は、その春から本腰を入れ直して再開していたものの、会話レベルは今ひとつ。しかし直前までやっつけ学習に励んでいた。

さて、勉強ばかりも疲れるので、韓国映画でも見ようとレンタルビデオ屋に行ったら、な~んと、半額セール中!しかも普段はセール対象にならない新作限定。「JSA」を見ようと思ったのだが、これは新作ではないので、新作で何かあったら、と探してみた。

「二重スパイ」

おぉ、よさそじゃないか。なんか「JSA」と似てそうだし。が、他にもないかと探してみたら、なんだか地味なタイトルの物が。

「おばあちゃんの家」

ぬぬ。聞いた事もない。ところが、これが思わぬ拾い物だった。

失業中のシングルマザーが仕事を探す間、都会育ちの我儘坊主を田舎の母に預ける。おばあちゃんは口が聞けず、耳が遠い。ど田舎のあばら家に1人暮らし。初めて出会った水と油のような祖母と孫。2人の様子が淡々と描かれていく。

なんだか嬉しいのは、出てくる場面場面がいちいち日本の田舎の風景にそっくりなところ。他のドラマや映画でもそうだが、ホントにハングルさえ見えなければ日本映画と勘違いしそうだ。しかし、田舎のバスの中で大騒ぎするオバちゃん達、彼女達の間を騒々しく鶏が飛び交っている。見かけは似ていても随所に韓国魂顕在。

ところで、筆者は本編よりも、DVDのおまけについていたメイキングで泣いてしまったよ。監督はイ・ジョンヒャンという小柄な女性。妥協を許さない厳しい人だが、主演のおばあちゃんに大変な事をさせているのが申し訳なくて仕方がない。このおばあちゃんはロケ地で監督自身が探し出した素人さんで、齢78歳。撮影中に誕生日を迎えたらしい。映画の役柄とは違って、饒舌で足腰もしゃんとしているものの、雨の中を歩いたり、裸足で石ころだらけの坂道を登ったり、若い人でも大変なシーンが多い。そんな彼女の大変さを少しでも軽減しようと奔走するスタッフの姿に胸を打たれる。

おばあちゃんの方も、厳しい要求に文句1つ言わず、時にへこんでいる監督や子役をなだめたり励ましたり。韓国のハルモニは偉大だ!映画には淡々とした場面しか写っていないが、孫が母親と共に都会へ帰る場面を撮影する時、現実にも子役がロケ地を離れる日だったので、彼女は本当に泣いてしまったそうだ。

一見低予算の平凡な映画に見えるけれど、カメラワークは結構凝っている。メイキングにはカメラを持って走りまわるスタッフの姿がたくさん映っていた。あばら家は映画のためによりおんぼろにリフォームしているようだ。地味~な映画なのに、実に力が入っている。

原題は「チブロ」。「家へ」という意味だと思うのだが、おばあちゃんの「家へ」来て、そして都会の「家へ」帰る、など色々な意味が込められていそうだ。

この映画は韓国では大ヒットし、素人おばあちゃんは有名人になってしまったそうだ。韓国の映画賞である大鐘賞(テジョンサン)で新人女優賞にノミネートされたとか。さもありなん。おばあちゃんだけでも見る価値あり。