ドイツ
第3節 ドイツ就職活動の旅

シュトゥットガルトでのフツーな2日間

筆者はシュトゥットガルトには何度か来たことがあった。来たことがあるどころか、今年の訪独3回中、都合毎回訪れていることになる。かといって、この街に詳しいかというとそうでもない。大体いつも、駅前通をフラフラしていただけなのだ。

初めて訪れたのは、かれこれ数年前になる。シュトゥットガルトから電車で1時間弱かかる、得体の知れない小さな田舎町でイベントがあり、それに参加するためにはるばるやってきたのだが、何分、フツーの日本人なら訪れる謂れもないような田舎町である。1日早く着いたからなのか、イベントがつまらなかったからなのか、理由は覚えてないのだが、その時一緒に来ていた友人のオクちゃんと一緒に、暇をつぶすためにシュトゥットガルトまで出て行ったのだった。この時もやはり、駅の近くをふらりとしただけだった。

この時オクちゃんが言った言葉を今でも覚えているのだが…

「今後ドイツに来ることはあるかもしれないけど、この田舎町に来ることはないと思う」

さもありなん。筆者ですら、そう思った。しかし、今回、シュトゥットガルトの東方より電車でやってくる途中、筆者は図らずしてこの街を通過することと相成った。街の名前を言え、と言われてもそれは不可能なのだが、なんとなく字面で覚えていたその名が、行き先表示板の中に通過駅として表示されていたのを発見したのだ。地味な街であるが、確かに覚えのある風景が車窓から認められた。オクちゃん、下車こそしなかったものの、ワタシは再びこの地に来てしまったよ…。

そんなことはともかく。

友人Sとともに如何にしてシュトゥットガルトで過ごしたかと言うと、先にも書いたように単に2人で喋っていただけである。それも久々に会って感激に浸ったのは初めの1分間だけ。後は日々の生活の愚痴など、近所の友達にするような他愛もない内容のお喋りばかり。2人して一体何やってんだろうね?しかもSにとっては初めてのヨーロッパだと言うのに。

しかし、まぁ、外国に来て一番の楽しみと言えばその土地の食事だろう。いくら海外ズレ?している我々とて、その辺の押さえは抜かりがない。まずはホテルのレセプションでランチに良さそうなレストランを紹介してもらう。いつもはトルコ系のインビスでサンドイッチばかり食らっている筆者だが、ドイツが初めての友達と一緒の時くらい、まともな食事もしてみたい。

ツェッペリンを発明した偉人もよく訪れたと言う、シックな内装のそのレストラン。中に入ってまず目に入ったのが、身なりのよい紳士とご婦人のグループ。しまった!我々のような庶民が来る所ではなかったのでは???と一瞬ひるんだが、外に掲げられていたメニューの値段からして、それほどハイソなところではないはず。意を決して入っていく。

応対してくれたウェイターのおニイちゃんは、エラく愛想がよく、「ドイツの人って意外と感じがいいのねー」と、Sにとってのドイツの第一印象は悪くなさそうだった。注文したのはこの土地のシュバーベン料理。劇旨!とまではいかないものの、手の込んだ感じのある味付けにお洒落な盛り付け。この辺が大雑把な北米の国に住む彼女にとっては、いずれの点でも合格であったようだ。

昼食の後は街中をぶらりとしようかと言っていたのだが、歯磨きをしたいSのために一旦ホテルへ戻る。そしてなんとなくダラダラとしているうちに外は暗くなり始め、「寒いのにわざわざ外へ出るのもなんだしー」と、結局ショーを見に行く時間までホテルの部屋に居座っていた。

ショーの始まる1時間前にようやく重い腰を上げ、我々は外に出かける。ちょっと何か食べたいとSがいうので、ドイツ名物のソーセージを食べることにする。屋台でカリーブルスト(カレー粉のかかったソーセージ)を買い、通りの石段に座ってかぶりつくも…ケチャップかけすぎで味がわからない!!!!!そしてお尻が冷たい!Sはソーセージについてきたドイツ名物の丸いパンに噛り付いて「こんなパンでもカナダのより美味しい」と喜んでいたのだが…カナダには余程不味いパンしかないのだろうか…(確かにそうだった気もする)

ショーの後、軽く食事でもーと思っていたのだが、何故かケーキを食べることになった。それというのも、帰りの道すがら、テキトーなカフェを探していたら、ショーウィンドーに美味そうなケーキを見つけてしまったからである。規則正しく生活するダンナに合わせて己の生活も規則正しくなってしまった彼女には、こんな夜中にケーキを食べるなど普段なら有り得ないことなのだが、まー、旅行中だしオッケーと、軽いノリで決断が下される。胃腸の弱い彼女は、そのせいで翌朝エライ目を見たらしいが。

さて、メニューは全てドイツ語で書かれているのだが…「コレは何?」とSに訊かれるままにメニューを見ていくや、意外にスラスラとそれに答えていく自分に驚いた!!!料理の名前はまるでわからないので、未だにレストランでは四苦八苦しているのだが、ケーキやお茶の類については恐ろしいほどすんなり説明できるのだ!

コレはリンゴケーキでしょ、コレはチョコケーキ、チーズケーキ…そして、コレは…あぁ!ドイツ名物「黒い森のさくらんぼケーキ」だよ!アタシ、コレにする!!!

知らず知らずのうちに、恐ろしく限定的にドイツ語を理解できるようになっていた自分にも驚いたが、実はSはお菓子作りの勉強をしたことがあり、ケーキに関して意外にこだわりを持っていることにも感心した。彼女が選んだアプリコット入りチーズケーキは確かに美味しかったし、そして彼女は「黒い森のさくらんぼケーキ」の存在も知っていた。が、フランス語圏で学んだ彼女は、勿論、「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ」という長ったらしいドイツ語名を知っていたわけではなく、「ふぉれっ・のわっ」というフランス語名で覚えていたのだが。

さて、翌日、実に遅めに起き出した我々は、ホテルの食事を終えると公園をプラプラあるいてみた。カナダの中でもとりわけ寒さの厳しいケベック州に住む彼女にとっては、この時期、未だに黄葉した葉っぱをつけている木々が新鮮に見えるらしい。公園の遊歩道の端に並ぶ巨大なスズカケの木に「ステキな木!」と感動して見せ、また、フランスからシュトゥットガルトへ向かう途中の電車の中から見た光景に「カナダとは違う!」とひたすら感激した、と話していた。こんな基本的なことで喜べる彼女にありきたりの観光などそもそも必要ないのである。だからコレでいいのだ!

てなわけで、ひとしきり公園を巡った後、我々は食事をすべく、街の中へ戻る。街にも興味がないSだったが、しかし、目ざとくチョコレート専門店の看板を見つける。チョコレートが好きなダンナのために「ドイツのチョコ」でも買っていこうか、と思ったものの、建物の入り口からチョコレート・ショップらしきものは見当たらない。斜めに曲がりくねった微妙な矢印をたどってみるに、どうやらそれは2階にあるようだった。小さなコーナーに高級そうなチョコレートの並ぶ棚が。お菓子通のSは、一目見るなり「これはフランス製」だのと見分けて見せる。で、折角だからドイツ産のチョコレートを買っていこう、ドイツ産って外国では余り買えないし、とSはいうものの、ドイツ製のチョコが国外で見られないのは、さりとてそれが格別美味いわけでもないからにちがいない。何しろ、周りをチョコレートで有名なスイス、フランス、ベルギーに取り囲まれているのだ。

このあと、チョコレート・ショップ併設のカフェで昼食を済ませ、粉末を溶かしたのではない本物のチョコレート・ドリンクを飲み、特に他を見て回ることもなく駅へ直行。そしてそれぞれの滞在先に戻る電車に乗ったのであった。なんだか近所の友達と近所で出会ったような錯覚が…