韓国
第4節 韓国語あれこれ

恋人もオッパ

結構驚いたのだが、これは名前を呼ぶに匹敵するほど親密度の高い呼称のようだ。日本語で敢えて近い語を探すとすると、かなりニュアンスは違うが「先輩」だろうか。高校生ぐらいなら、確かに彼氏でも「せんぱ~い」なんて呼んでいそうだ。

余談だが、「先輩」という日本語は西洋人の武道家がそのまま使っている。「先生」もしかり。が、面白い事に名前を後にくっつけて、「センセイ・ピーター」「センパイ・ブライアン」と呼ぶのである。なんだか「ぷぷっ」て感じだが、例えば英語の敬称、ミスター、ドクターなどに倣っているのだろう。この場合の「センパイ」は、「~さん」といった軽い敬称の替わりというよりもむしろ武道家の階級を表しているようである。

ある時、韓国人の「友人」と同席中、彼に電話がかかってきた。話し終わった時、何の気なしに「友達から?」と訊いたら、いや違う、「school brother」からだ、と言う。は?「school brother」?「学校の兄貴」???

思うに、これは先輩、即ち「ヒョン」の事を言いたかったのではないか。事実、韓国語には「学兄(ハクヒョン)」という単語があるらしい。英語でこれを説明しようとすると、かくも奇妙な表現になる事か!!

因みに、年下・年上の「友人」には、「友達」「friend」と訳される言葉、「チング」は使わないそうだ。あくまで同年代だけに当てる言葉らしい。という訳で、彼は年下なので、彼にとって筆者は「チング」ではない。これを英語にすると

You are not my friend.

相手が韓国文化の事情を知らなきゃ明らかに誤解を招きそうである。

日本人の友人でも、English Onlyの学校で知り合った子とは英語で会話をせざるを得なかったので、年上だろうが年下だろうが、自然、ファーストネームで呼び捨てにする事になる。韓国人はどうなんだろうか?カナダにいた時は前述のような事情を知らなかったので、特に気にして観察していなかったが、「sister Charming」「brother David」とか言っていたら修道院みたいでなんだかイヤである…。そう言えば、日本でキリスト教の結婚式に参列した時、牧師さんが新郎(熱心なキリスト教徒)の事を「○○兄弟」と呼んでいたなァ…。

以前韓国へ行った時、やはり日本から来ていた筆者の後輩(男)が、韓国の子らに「アニキ~」と日本語で呼ばれてオタオタしていた。誰かが「brother」にあたる日本語は何かと訊ねたらしいのだが、う~ん、いきなり「アニキ」はやっぱり変だよ…彼らはきっと、親しみを込めて「ヒョン」「オッパ」と呼びたかったのだろうけれど、日本語に全く同じニュアンスの言葉はないので、やはり無理がある。「日本語でそれはちょっとヘン」と正されて、以降、彼が「アニキ」と呼ばれる事はなかったが、どうしても、と言うのなら韓国語で「ヒョン」「オッパ」と呼んだ方がむしろしっくりくるだろう。

韓国語の呼称でもう1つ独特なのが、「オジさん」「オバさん」という呼び方だ。バスの運転手も、市場で働く人も、タクシーの運転手も、キップ売り場の駅員も、交番の警察官も、とにかくある程度の年齢の他人は皆「アジョッシ」「アジュンマ」でOK(未婚の若い女性に「アジュンマ」はご法度だが、男性は若くても「アジョッシ」で良いらしい)。ついに最後まで「見てしまった」冬ソナでも、主人公が無理矢理バスを止める時は「あじょっしぃぃぃ~~~!」と叫んでいた(日本語訳は「止めて~~~!!」となっていた)。

初めて韓国を訪れた時、友人が公園にいた見知らぬオジさんに「アジョッシ」と話し掛けていた。日本で同じ状況だったら「すいません」と切り出す場面だろうか。「アジョッシ」「アジュンマ」に比べるとかなりよそよそしい感じだ。それに、悪くもないのに謝っているような感じがするので、あまり多用したくない言葉だ。が、「アジョッシ」「アジュンマ」だったら気軽に声をかけられそうである。実際、韓国の市場では、この言葉が値切り交渉に大いに役立ってくれたのだ。

追記:近頃は大学生の間で、女性が男の先輩をヒョンと呼ぶ習慣がでてきたらしい。ドラマを見ていたらそんな場面があったので、知り合いの子に訊いてみたら、そういうことだった。でもって、男性からすると年下の女性から「ヒョン」と呼ばれるほうがより嬉しいんだとか?…よくワカラン…。日本語でかつて言われていた「あっしー君」「みつぐ君」みたいに、女性にとって都合よく動いてくれる男性のことはアジョッシと呼ぶそうな。