韓国
第1節 韓国のフツーな人々

女子大生ペンパルに会う

筆者には、日本語学習を目的とした韓国人ペンパルが2人いるが、そのうちの1人、女子大生のチュヨンさんに、友人の結婚式があったチョンジュで会う事ができた。たまたまクリスマス行事で親戚を訪れる事になっていたようで、なんとも都合の良い話だった。

彼女は日本語科で学ぶ学生さんで、筆者が文化センターの韓国語教室に通っていた時、そこの生徒さんに紹介された。彼女のクラスと文化センターの生徒それぞれから適当にあてがわれた相棒である。

彼女の好きな日本の「風物」は、「モーニング娘。」、「Speed」(あり?解散していなかったっけ?)、日本の漫画「花より男子」やピカチュー…。な、なんかジェネレーションギャップ???その上、なんか微妙に日本の流行と時差があるよな…。

手紙やメールでは辞書を引き引き何とかやり取りできたものの、喋るとなるとお互いかなり不自由な実力である。はっきり言って、電話で意思疎通を図れるとは思わなかったので、事前にメールできっちり約束を取り付けたかったのだが、「韓国に着いたら電話してください。それから決めましょう」という返事。なんか、韓国人って、こういう人が多いのだなァ…。

まァ、向こうにも都合があるだろうから仕方がない。幸い、ソウルで英語が堪能な友人に会う事になっていたので、彼女に手伝って貰って、何とか待ち合わせの時間や場所を決める事ができた。

さて、約束の日、待ち合わせ場所のバスターミナルで待っていたが、彼女はなかなか現れない。電話をして、「高速ターミナルにいるよ」と言うと、今からそちらに行きます、というような事を喋った。バスターミナルは2箇所あって、彼女は別の方で待っていたらしい。

やはりお互い相手の言葉を喋る実力が充分でないので、これから何処へ行きましょうか、という相談をするのにも一苦労。何か提案しているようだが、よくわからない。取り敢えず、目の前にあったコーヒーショップに入って落ち着いて話しましょう、と提案した。コーヒーショップに入り、ポケット辞書を取り出して彼女が言わんとしていた言葉を探すと。彼女が指したのは「探しに行く」という単語。カフェでも探しましょう、と言いたかったらしい。で、そのカフェとはこのようなチープなコーヒーショップではなく、もっと雰囲気の良い所を指す。しかし、既にコーヒーを買ってしまった後。まさしく後の祭り。

取り敢えず、辞書を使って不自由な会話はできたので、今日1日の予定を話し合う。彼女は夜8時くらいまで大丈夫だと言うのだが、この辺りは街のハズレで、とりわけ面白いものもない。筆者の方は韓国語会話ができればそれで良かったのだけど。コーヒーショップの店員に訊くと、バスターミナルの隣にショッピングモールがあり、映画館もあるという。ちょうど、韓国でも人気の高い宮崎アニメの新作、「ハウルの動く城」の上映が始まったばかりと聞いていたし、彼女も「千と千尋」(韓国では『の神隠し』の部分は省かれたタイトルで公開された)、トトロなどが大好きなようなので、一緒に見に行こうか、と提案してみた。外国映画は大抵字幕で上映されるが、たとえ吹き替え版でも、既に日本で1回見ていたから、問題ない。むしろ韓国語の台詞が聴けたらかえって面白い。

しかし、週末という事もあって、映画館はエラい混雑ぶり。次回の上映は既に満席、その次の上映まで3時間もあったが、まァ、他に娯楽らしき事もないので見る事にする。

さて、ここで彼女の韓国人魂が炸裂する。なんと、映画代を奢ってくれようとするのだ。いいや、私が払うよ、と言っても聞かない。その上、映画館で飲み食いするおやつまで彼女が買ってしまった。お昼御飯は私が奢るね、と言ったのに、やっぱり自分が払うと言い張る。何とかだめすかしてこの場は筆者が払ったのだが…。

この少し前に、相手の敢えてのリクエストで外に食べにに出掛け、こちらは奢る気などさらさらなかったのに、元から奢られる事を決め込んでいたのか、支払いの段で財布を出そうともしなかった日本人の知人の事がふっと頭をよぎった。筆者が普段は殆ど外食などせず、しかも失業中である事は知っていたはずなのに、全く思い遣りのない輩である。しかも相手は筆者よりいくつか年上のパラサイト・シングル。家は結構金持ちで、良い暮らしをしているように見える。それなのに事あるごとに「お金がない」と言っている。しかしこやつの場合、単にガメツイだけだろうよ。割り勘する時もきっちり1円単位で分けようとするのだ。そんな奴に奢ってやろうなどという気はこれっぽっちも湧いてこない。

それに引き換え、この女子大生は…。アンタ、この前の手紙で「お金ない」って言ってたじゃん…。(なのに、筆者が送ってあげた日本の雑誌のお返しにと、中古市場で探したCDボックスセットを送ってくれたのだ!)

別の知人は、筆者と母と叔母の一行をタクシーで連れ回し、市場で色々な物を買っては我々に食わせ、そのお礼にお昼ご飯を奢ろうとすると「いけません!」と逆切れさえしていた。彼女の家はナンか色々あって、家計が火の車のはずなのに…。貧しくても後先省みず、もてなそうとするこの心意気は一体…。

さて、何やかやあってようやく映画館に入る事ができた。館内は満員御礼。中には「通路用の椅子」を持って階段に座り込んでいる人もいた。劇場側で用意している物らしく、クッションや背もたれもある座椅子のような物。なかなか頭の良いアイデアではないか!

映画は韓国語字幕版。ハウル役の木村拓也氏の声も売り物にしたかったのだろうか?なんにせよ、容易に理解できるのは有り難い。また、短い台詞なら韓国語字幕も読む事ができてなかなか楽しい。面白いのは、男の子が主人公を名前で呼ぶ場面で、字幕では「ハルモニ(おばあちゃん)」となっていた事である。そりゃぁ、韓国じゃ年配のばあちゃんの事を呼び捨てにしたりしないだろうけど、物語の舞台は韓国でも日本でもないヨーロッパ風の国なのだから、そのままでいい気もするがな?

と、思ったものの、日本でも海外ドラマの吹き替えでは年上の兄弟への呼びかけが「にいさん」「ねえさん」になってたりする。韓国では当然「オッパ」「オンニ」になっているのだろうな…。親しい年上の友人や、年上の召使の時なんかはどうなるんだろう?

映画の話に戻る。更に楽しかったのは、観客の反応の良さ。彼らはここぞというところでよく笑うし、驚いたら声をあげる。終盤、カカシが姿を変える場面では大爆笑。そうか、ここは本来笑う場面だったのか(日本で見た時も「そのお手軽過ぎる展開は何?」とは思ったが)。2、3日前に見たマジックショーでもそうだったが、韓国の人々はとにかく感情表現がくっきりはっきり表に出るのだ。日本の映画館も昔はこうだったのかもしれない。

映画が終わってもまだ暫く時間があったので、ファストフード店に入ってお茶を飲む。外で焼き栗を売っていたので、これも買ってこっそり持ち込む。ここでも2時間近くお喋りをして過ごした。

テストでこってり絞られているだけあって、彼女の日本語の方が筆者の韓国語より少しは達者。彼女の韓国語を筆者が理解しない時は、一生懸命日本語で話してくれた。次に会う時にはこちらが韓国語を話す必要などなくなっているかも…。