韓国
第1節 韓国のフツーな人々

イブの夜はチョヂョラダ

プヨンさんとは2004年1月に出会い、その時ほんの30分程度話をしただけだった。彼女はヒョヌ君の所属するマジック・プロダクションの社員で、お抱えスターマジシャンのファンクラブの事務をしていたらしいが、仕事がつまらないので間もなく辞めるという事だった。筆者が訪ねて行った時、会社の別室でずっと付き合っていてくれるので、こんな所で油を売っていて良いのかい、と訊いたのだが、良いのだ、と言う。

ホントか?

そんなこんなで、暫く他愛いもない話をして一緒に過ごしたのだが、帰り際、彼女は名刺に個人のメールアドレスを書いてよこした。今度韓国に来る時は連絡して、もし韓国で困った事があったらいつでも電話して、と言う。因みに、この時の会話は全部英語だった。

さて、それ以来、特にメールをやり取りするでもなく、1年の時間が過ぎた。年末に韓国に行く事になり、知人の連絡先を探して「韓国人の名詞」の束を解くと、彼女の手書きのメールアドレスが目に入った。覚えていないかもしれないなァ、と思いながらも、メールを送ってみると、な~んと、しっかり覚えていてくれたばかりか、未だに(?)失業中(!)でいつでも時間があるから是非会いましょう、と言ってくれる。またしても類は友を呼んだ…のか?(筆者もこの時失業中)

12月24日が都合が良かったのだが、クリスマス・イブだし、他に約束があったらいいよ、と気を使ってみたのだが、いいや、私も何にも予定がないから大丈夫だよ、と言う。またしても類は友を呼んでしまった…のか?

さて、細かい打ち合わせのため、韓国に到着してから彼女に電話すると。初めは英語で話していたのだが、気が付くと、いつの間にか彼女が日本語を話し出していた。

あり?彼女、日本語話せる人だったっけ?

初めは西洋の外人さんによく見られる挨拶程度のレベルだろう、と思ったのだが、恐る恐るこちらが日本語で話しても、大体全て理解しているようである。また、日本語の上手い友人がいるから、彼女も一緒に行って良いか、と言う。大歓迎である。それにしても、彼女、日本語話せたっけ???

なんだか狐につままれたような気分になりながら、イブの晩、約束の場所に会いに行った。ねえ、アナタ、元から日本語話せたっけ、とプヨンさんに訊くと、4月頃から始めたのだという。

素晴らしい!まだほんの数ヶ月しか経っていないというのに!

まだまだ流暢とは言い難いが、アタシのインチキ韓国語会話より余程レベルが高かった…。また、この時初めて知ったのだが、彼女は中国留学の経験があり、中国語も堪能なのだという。なんてこった…。

プヨンさんの連れてきた友人のミヨンさんは、今はインチョン空港の売店で働いているのだが、日本にはワーキングホリデー・ビザ及びワーク・ビザで滞在した事があるという。日本語レベルはかなり高く、発音も美しい。また、性格も美しい。プヨンさんが「私の友達の中で一番性格が良いです」というだけの事はある。また、性格の良さが顔に表れたような、綺麗な顔をした人でもあった。女優みたいな整った美人という訳ではないけれど、整形じゃこういう顔は作れない。なんでこんな素敵な人がイブの晩にワシらオナゴ同士の飲み会に顔を出しているのか、著しく謎だった。

因みに韓国でも、クリスマス・イブは恋人達がデートする日という事になっているそうだ。日本から輸入された珍習慣だろうか。しかし、元々夜遊び好きの韓国人の事、イブの夜とて同姓同士で楽しそうに繰り出している人は普段と変わらず大勢いて、日本のようなロマンチックさを求める雰囲気はなかった。なんだかいつもの夜と全く同じである。

さて、後日出会ったペンパルの女子大生に、クリスマスは独り者女3人で飲みに行ったという話をすると、そういう状況の事を韓国語で「チョヂョラダ」と言うそうだ。携帯辞書を見ると、「凄絶だ」となっている。イヤ、それほど凄まじい状況でもなかったんだけど…。後日、もっと詳しい辞書を見てみると、「凄絶」と「凄切」、両方の意味があった。彼女の言ったのは後者、「凄切、せつない、みじめだ」の方だろうか?

しか~し、飲み屋を2件梯子して、サムギョプサルとパジョン、ビールとソジュ、楽しい日本語会話で腹も心も満たされ、我々は全然チョヂョラダな事ナゾなかったぞよ。むしろ、これまでこんな楽しいクリスマス・イブを過ごした事があっただろうか、と言いたいほどのものだった。

ウリヌン チョンマル チョヂョラジ アナッソヨ。