2016年弥生のかめ

黒島から解き放ったかめ

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沖縄県八重山諸島の一つ、黒島にある「黒島研究所」主催の「ウミガメ勉強会」に参加した。

黒島は仔牛の飼育が盛んな小さな島(周囲約12キkm)で、親島たる石垣島のヒトビトにどんな島かと尋ねると「牛しかいない」とにべもない答えしか返ってこないことが多いのだが、ガヤガヤした観光施設が何一つないのでのんびり過ごすには最適。筆者はこれまでに二度訪問した。

この島、実はウミガメの産卵地となる砂浜があり、そのほど近くに「NPO法人日本ウミガメ協議会付属 黒島研究所」がある。主にウミガメの生態を研究しており、その一環として行っている標識調査を一般の人も見学できるイベントとしたのがこの「勉強会」だった。

研究所の近所でサンドイッチを売っていた移動販売のお店の方からこのイベントのことを聞き、気になって研究所まで詳細を訊きに行った。参加費2200円(ランチ券込)、時間は約1時間。この時間では価格の割に内容が薄いのでは…という懸念がまずよぎったのだけど、この価格設定は放流用のカメを確保するのに費用がかかるためだろうという理由を宿の方から聞き、ならば、と納得し、参加してみることにした。

当日、開始時間に申し込みに行くと、「勉強会セット」が入った封筒を渡された。内容は…

  • 日本列島における黒島の場所がバッチリ図解された封筒
  • 研究所の案内リーフレット
  • カメに付ける標識と同型のキーホルダー
  • アオウミガメのウンコで作ったランチ券
  • ランチ券が使える場所の案内図
  • カメ型の絵葉書

アオウミガメはウミガメ類の中で唯一草食だそうで、ゆえにウンコも繊維質。その繊維を漉いて作ったランチ券が付いており、島内の数少ない食事処で使用できるようになっているのだが…使ってしまえば当然手元に残らない。珍しいモノなのでとっておきたいヒトもいるだろうに…(^_^;)

カメ型の絵葉書は、研究所スタッフがデザインした力作だそうで、黒島近海で観察できるアオウミガメ、アカウミガメ、タイマイの特徴を忠実に再現しているのだとか。葉書には研究所の住所が記入済みで、切手も貼ってある。コレにジブンの電話番号を記入して投函すると、その日放流したカメがドコかで見つかった時に電話で知らせてくれるのだそうだ。へー、粋な試み!とはいうものの…コレも投函してしまえば当然手元に残らない。自称「力作」を一旦配布しておきながら、手元に残らない仕様って、どうよ…(^_^;)?

実際、葉書を手元に残しておきたいから投函したくないというヒトもいた。ハガキは参加者のみがもらえる特典として、電話番号集めは別の方法で行った方がよくないか???それとも、あまりにも多数のヒトからハガキが届くと対応が大変だから希望者をある程度間引きしたいのか???研究所のヒトの意図がよくわからない…。もしも積極的にハガキを送って欲しいのだとしたら、このやり方は若干的外れの感があるのは否めない。

さて、「勉強会」の内容はというと、まず、各ウミガメの特徴の説明がざっくりとあり、両手でつかめるほどの小さなカメを触らせてもらった。小さいながらも結構な力で足をばたつかせ、こちらの手の甲をバンバン叩いてきた。ひとしきりカメに触れまくった後は、その日放流する大柄なカメの身体測定。大型のノギスで甲羅の縦横の長さを測り、プラスチックのカゴにカメを入れて体重を測る。カゴから出し入れする際には首の上部としっぽの上部の甲羅に指先を差し入れて、えいやっと持ち上げていたが、カメは嫌がってバタバタ足を動かし、運んでいる人の脛あたりを力いっぱい叩きつけ、相当痛そうだった。この日のカメの体重は40キロ以上あった。

さて、このカメを砂浜まで運び、いよいよ放流。砂浜を歩くのは産卵の時くらいしかないようで、このカメにとって卵から孵化した時以来の砂浜歩きである可能性もあり、初めは戸惑ってウロウロすることもあるそうだ。ところが、このカメ、迷うことなく水際に向かってのそのそ歩き、海に入るや否や、沖へ向かってピューッと泳ぎだし、あっという間に姿が見えなくなった。砂浜でのモタモタ感と水中での動きの素早さのギャップに一同唖然。

「勉強会」は想像していたよりも面白い内容で、(手元に肝心のものが残らない仕様はともかく)勉強会セットの充実度にも感心したので、周囲のヒトビトにイベントについて吹聴して回った。すると同じ宿に泊まっていた方のヒトリが早速翌日参加され、写真を送ってくださった。このページのに掲載した写真の半分は彼女から提供していただいたものだ。その日の放流カメは、筆者の参加した回のカメよりかなり小ぶりで、12kgほどしかなかったそう。この通り、女子でも楽々持てる大きさだったようだ。

黒島を後にして石垣島に行ってからも、出会った友人知人にイベントのことを話すと、みなさんかなり興味を示していた。石垣島住民向けの広報などでなんとなくイベントの存在は知っていたけれど、そんな面白そうな内容だとは思わなかった、とのこと。きっとやる気のない記事だったんだろうなぁ…(^_^;) このへんの離島の観光戦略って「何か間違ってる」と、観光に携わるお仕事をされている方(内地出身)はご自身の経験も噛み締めながらつぶやいたのであった…。

このイベントは離島に定期船を出している旅行社の観光プランの一つとしても提供されており、石垣島から来る方は交通費も込みのパッケージ料金で利用できるのだけど、離島ターミナルでそれらしい案内は全く目に入らなかった。そもそも研究所自体でもろくに宣伝をしておらず、イベント参加前に筆者は研究所を訪れているのに、イベントの存在には全く気づかなかった。よくよく見ると入り口の扉の裏側に文字がギュウギュウに詰め込まれた読む気も失せそうな記述があるにはあったが…掲示場所にも掲示内容にもヒトを呼びこむ意欲が全く感じられない。

研究所のサイトのトップページにも他の情報に埋もれそうな体で一応記載はあるが、参加費の情報やランチ代込という美味しい情報の記述はなく、旅行社のトップページへのリンクが載っているだけ。ここから申し込みできるページに辿り着くのは、相当な根気を要求される。サイトを見てちょっと心に引っかかったけど、それほど熱心でもない人は、ココで参加を断念してしまうだろうに…。

また、黒島の中でも特に宣伝されている気配はなかった。研究所への案内標識の下にでも、コドモがカメを触っているイラストでも添えて掲示したら、ウッカリ参加してしまう人もいるだろうし、民宿や食堂にチラシを置いても効果はあると思う。宿の人から宿泊客への口添えがあれば更に効果は増すだろう。

その上「勉強会」って名称が、そもそもなー。参加する気をなくさせるような…。観光客向けにはもっとキャッチーな名称の方が受け入れられやすいカモ…。ていうか、あんまり参加者が増えるとこまるから、敢えて宣伝を控えているのだろうか???

島の第三次産業がわずかながらも潤う仕組みも取り入れられた良いイベントなのに、潜在的な参加対象者に十分に周知されていないのが著しく勿体無い気がしたのであった。